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年に一度の本のお祭り。
思いがけない出会いが、「ブックカーニバル」の魅力。



文士が愛した鎌倉で
本のお祭りを開催したい。


 一年半前、鎌倉大町で古本屋を始めました。それまで、都内で会社勤めをしていた私にとって、大好きな本に囲まれる生活は、長年の夢でした。一般の書店と違って、ゆるやかな時間が流れる古本屋は、お客さまとおしゃべりをする時間が豊富にあります。そんな中、ある若いお客さまから「鎌倉って案外、古本屋さんが少ないですよね」と言われ、確かにそうかもしれないと思ったのです。実際、今、鎌倉にある古本屋は、わずか6軒。かつて、川端康成や久米正雄、高見順などの文士が暮らした、文学ゆかりの町でもあるのに、それが今、この町に溶け込んでいないことを、少し残念に思いました。

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 そんなとき、ふと浮かんだのが「鎌倉カーニバル」です。鎌倉カーニバルは、昭和9年に、久米正雄や大佛次郎などの発案によって始まった鎌倉のビッグイベント。文士たちが昭和の初めにフランスで見たカーニバルに感銘を受け、鎌倉で実現させたと言われています。途中、戦争で自粛されたものの、昭和37年まで開催されていました。そして、そんなカーニバルのオマージュ的なイベントとして、古本を主役にしたカーニバルを復活させたいと思ったのです。それが、「ブックカーニバル」のはじまりでした。


公民館にあふれんばかりの人!
手応えを感じた。


 とはいえ、東京から移住して一年足らずの私たち夫婦には、協力者のあてもなく、自分たちの足を使って、会場を探さなければなりませんでした。はじめは規模の大きい公共施設などを回ってみましたが、コンクリートの無機質な空間と古本がなんだかマッチしていないように思いました。そこで、町の公民館に目を向けてみると、渋くてすてきな建物がいっぱいあるではありませんか! 最終的には、立地の良さから、由比ヶ浜公会堂を会場に選びました。

 しかし、会場は決まったものの、当日の運営にはスタッフが多数必要でした。そこで、ボランティアスタッフとして応募を募ってみたところ、本好きマニアから出版社勤務の人、なかには「特別本が好きというわけではないのですが、スタッフとして参加してもいいですか?」と言って来る人など、15人が集まりました。こんなにたくさんの人が集まってくれたことに、正直驚きましたね。
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 カーニバルの開催前日、折しも梅雨入り宣言がニュースに流れ、集客が厳しいのではと心配でした。ところが、翌日は見事な快晴! 10時スタートにもかかわらず、会場にはすでにお客様が並んでいるではありませんか! 鎌倉市民なら誰でも目を通す「広報かまくら」に告知した効果があったのか、会場には、小さなお子さんを連れた家族から、杖をついたお年寄りまで、たくさんの地元の方が足を運んでくれました。また、ちょうど紫陽花のベストシーズンにも重なり、道行く観光客が、人の波に誘われてやって来ました。公民館の中では、出店を募った20の小さな古本屋が肩を寄せ合うようにして並んでいます。そこを歩く隙間もないくらい大勢の人が訪れ、一時は建物が壊れてしまうのではないか?と本気で心配しました。と同時に、大きな手応えを感じることができました。そして、新たな決意をしたのです。「ブックカーニバル」を継続させて行こう、と。


いろいろなジャンルが揃う古本市
足を運ぶことで運命的に出会える一冊。

 第1回目の時に、予想外に出店希望者がいて、キャンセル待ちの方が出てしまったこともあり、今回は会場を由比ヶ浜公会堂と長谷公会堂の2カ所に設置することにしました。また、ちょうど、2つの公会堂を結ぶ由比ヶ浜通りには、古本屋さんや絵本屋さんが点在していたこともあり、由比ヶ浜通り全体を本の町として盛り上げていけたらおもしろいかも!と思いました。

 第3会場として、イシワタリを選んだのは、2つの公会堂のちょうど中間点にあったというのと、その建物が持つ温かな雰囲気に惹かれたからです。当初の企画では、ここでワークショップを考えていたのですが、より多くの方に本の魅力を感じてほしいという思いから、鎌倉に縁のあるの作り手をゲストに迎え、講演会を開くことにしました。トークショーではなく、本談会というタイトルにしたのは、参加者とゲストができるだけ近い距離で、本について語ってほしいと思ったからです 本談会のゲストは、作家、編集者、発行人など、本づくりに関わる人たちです。皆さまとてもお忙しい方であるにもかかわらず、わずか2回目の歴史の浅いこの企画に快く賛同していただき、とても嬉しく思いました。
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 「ブックカーニバル」の魅力をひとことで言うのであれば、それは思いがけない出会いではないかと思います。今、世の中はすべてものがネットで買える時代です。私自身も、プライベートではネットで本を購入することがあります。けれども、それは、あらかじめ「この本が欲しい」というのが前提であって、古本屋ですてきな本を見つけ出したときのような感動はありません。「ブックカーニバル」のおもしろいところは、さまざまな人が薦めるさまざまなジャンルの本に出会えることです。例えば、はじめは、子どもの絵本を探すつもりだったのに、ふと隣のブースに目を向けたら、すてきな写真集に一目惚れしてしまったなど、運命的な出会いもあります。また、本だけではなく、売り手と買い手の間にもすてきな出会いがある。その心地よい距離感が、「ブックカーニバル」の魅力なのではないでしょうか。

(聞き手/石渡 真由美 撮影/福井 隆也)
本インタビューでは、正式名称「ブックカーニバル in カマクラ」を「ブックカーニバル」と略して表現しています。







【プロフィール】
荘田 賢介 Shoda Kensuke
鎌倉大町の古本屋「books moblo」店主
編集プロダクション勤務を経て、2011年に古本屋をオープン。翌年、「ブックカーニバル in カマクラ」の発起人となり、活動を開始。同年6月に第1回「ブックカーニバル in カマクラ」を由比ヶ浜公会堂で開催した。