食卓は宇宙作家の食器展in鎌倉/長谷
三者三様 芦澤龍夫・高橋芳宣・瀧田操
2012-9表面DM
2012928()~104()11~18時 最終日は16


場所 古民家スタジオ・イシワタリ
主催 ㈱メリーメーカー八巻廣太 TEL090-3139-4024
共催 クラシ・ヲ・アソブ 八巻元子


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秋風が心地よい9月下旬。古民家スタジオ・イシワタリの一階和室に、個性豊かな3人の作家の和食器が並びます。作家ものの器というと、若い世代には手が届かないというイメージがあるかもしれませんが、「和食器はひとつからでも楽しめ、毎日の食事を豊かにする」と話すのは、器展を企画した八巻廣太さん。八巻さんの和食器に対する思いを聞いてみました。


料理雑誌の常識を変えた『四季の味』。
器好きの祖父が繋いでくれた作家との縁。

 
 5人兄弟の末っ子の私にとって、祖父・森須滋郎は、辣腕編集者というよりも、シブくてカッコイイおじいちゃんという印象が残っています。祖父の家に遊びに行くと、料理を作るのは決まっておじいちゃん。食べることが大好きな人でした。
 祖父・森須滋郎が初代編集長を務めた料理雑誌『四季の味』は、『マダム』という婦人雑誌のムックとして、昭和50年に創刊。当時、料理雑誌といえば、家庭向けのレシピを紹介するだけのものでしたが、祖父は家庭でいかにおいしいものが食べられるかにこだわり、おいしい料理を作るためには、プロの味を知ることはもちろん、食材や食文化に関する知識も必要であると考え、料理雑誌の常識を越えた独自の企画を展開していきました。
 そのひとつとしてこだわったのが、料理を盛りつける器でした。祖父は、自らの足で全国の窯元をまわり、たくさんの若手作家の器を料理とともに紹介しました。当時、無名だった若手作家にとって、『四季の味』で作家名が載ることは、大きな喜びだったと聞いています。その縁は、祖父が他界した今も続いており、器展をはじめるきっかけとなりました。

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ごはん茶碗ひとつで、心が豊かになる。和食器の魅力を再確認。

 そんな祖父の影響を受け、わが家の食卓にも和食器が並んでいました。けれども、幼い頃からそれを使っていた私は、和食器の良さに気づかずに大人になりました。
 ところが、30歳で結婚をし、安価な既製品の器で食べる食事に何の不満も持たずに過ごしていたある日、とある作家の器展でひとつのお茶碗に一目惚れしてしまいました。ちょっと高いな、と思いつつも、手が届かないほどの値段ではなかったので、少し勇気を出して買ってみることにしました。
 すると、どうでしょう。そのお茶碗に変えた途端、ごはんがとてもおいしく感じるのです。たったひとつ器を変えただけで、毎日の食事が豊かになる。和食器の魅力を再認識した出来事でした。
 それからときどき、作家展に足を運ぶようになり、気に入ったものに出会えれば、ひとつ、ふたつと少しずつ集めていきました。すると、今度は、和食器を組み合わせることが楽しくなってきたのです。セットで揃えるのが習慣の洋食器と違って、和食器の使い方は自由自在。同じ食卓に違う作家の器が並んでも構わないし、和食器だから和食ではなく、カレーでも中華でも盛りつけることができる。その形は無限にあり、まさに和食器のある食卓は“宇宙”。
 今回は、異なるテイストを持つ3人の作家の器を集めてみました。この器に何をのせよう、この器とあの器を組み合わせてみたらどうだろう。和食器は使う人のイメージを搔き立てます。

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普段使いでいい。自由な組み合わせでいい。
同世代に和食器の良さを伝えていくのが、自分の役目。

 ところが今、世の中では、便利や効率の良さが求められ、こうした手作りのものが少なくなっています。また、大量生産の既製品と違って、作家がこの世にひとつだけ生み出す器は、価値の高いものとされ、若い世代には手が届かないものと思われています。
 けれども、たったひとつお気に入りの器があるだけで、毎日のごはんがおいしく食べられるのであれば、こんなに幸せなことはありません。私は、この日本のすばらしい文化をいつまでも残していきたいと思っています。
 今回、古民家スタジオ・イシワタリで器展を開催しようと思ったのは、同じように古民家をいつまでも残したいと話すオーナー夫妻に共感したからです。和食器には懐石料理、古民家には和の家具といった固定観念をなくし、和食器にイタリアン、古民家にベトナムのプラスチック椅子と自由な発想で、日本の文化を守っていきたい。それができるのが、私たちの世代であり、同世代に和食器の良さを伝えていくのが、私の役目だと思っています。
聞き手:石渡真由美 写真:福井隆也


(プロフィール)
八巻廣太
鎌倉生まれ。祖父は料理雑誌『四季の味』の創刊者、故森須滋郎。母、八巻元子も同誌の編集長を務めた。2008年より母・元子と一緒に、『四季の味』時代からつきあいのある作家の作品を中心に、陶芸展を企画。高級な印象を受ける作家ものの器を、若い世代の人たちにも親しんで欲しいと、器と料理を組み合わせたレシピカードを用意するなど、独自のアイデアで展開している。