古民家スタジオ・イシワタリでは、静岡を拠点に家具を中心とした住まうための道具を企画・製作している「すまうと」の企画展を開催します。
会場では、家具を中心に、酒器、小物、不思議な積み木、メイドイン静岡のこだわりのスピーカーなど、毎日の暮らしを心地よくする道具たちが並びます。

「住まうための道具展」
構造エンジニアが制作・デザインする暮らしのアイテム
家具・器・スピーカー etc
2012・11・23(祝・金)〜12・2(日)
10:00〜19:00(最終日は16:00まで)


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自分サイズのお箸づくりとベトナム料理を食べる会
(参加費3000円)
11/23(祝・金)&12/2(日)
11:00〜14:00
要予約 
kominka_ishiwatari@me.com
ノコギリ・カンナを使って自分サイズのお箸を削り込みます。つくったお箸でベトナム料理のランチを堪能しましょう。


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こだわりのスピーカーとお酒の会
(一杯500円)
11/24(土)&12/1(土)
16:30〜19:00
ギャラリーオーナーが愛するベトナムと野木村が暮らす静岡のお酒とおつまみを片手に、和紙と漆でつくったこだわりのスピーカーが奏でる音を楽しんで見ませんか。(予約は不要です)






鎌倉の寺社のもみじが色づきはじめる11月終わり、古民家スタジオ・イシワタリに、木製家具を中心とした“すまうための道具”が並びます。作り手の野木村敦史さんは、デザイナーであり、構造エンジニアであり、家具職人でもあるマルチな作家さん。“力学”と“芸術”が組み合わされた野木村作品の“構造美”はどうようにして生まれたのでしょうか?

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デザインから製作まで、ものづくりのすべてを自分一人の手でやってみたかった。


オリジナル家具の製作というと、芸術的なセンスが第一と思われがちですが、実は僕は理系出身。かつては鉄会社で工場や倉庫の構造設計をしていました。そんな私の人生を大きく変えたのは、とあるテレビ番組。デザインから製作まで、ものづくりのすべてを一人で行う作家を追ったドキュメンタリーで、大きな建物の一部分しか携われない自分には、とても魅力的な仕事に思えたのです。

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構造エンジニアの仕事も、ものづくりには変わりませんが、所詮一人ではできない仕事です。自動車や家電といったハイテク産業はみな同じ。でも、“木”というローテク産業であれば、自分一人でもできるかもしれない。会社生活は居心地がよく、大きな仕事ができるというやりがいもあったけれど、自分がやりたいことをやるなら今しかないと思いました。そして、30歳を機に7年間勤めた会社を辞め、家具職人を目指したのです。


“力学”と“芸術”が組み合わされた構造エンジニアが作る家具。



星の数ほどいる家具職人の中で、自分らしさを出そうと思ったときに、一番の強みとなったのが、構造エンジニアとしての経験でした。僕がつくるもの、デザインするものは、人が使うものです。それを生活の道具ととらえるならば、機能性はとても大事な要素。けれども、暮らしの中の心地よさを追求したとき、人は美しいデザインや気持ちのいい感触を求めます。僕がつくりたかったのは、そんな“構造美”が感じられるものたちです。

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構造エンジニアがつくるものは、たとえば同じ椅子をつくるにしても、いかにシンプルにつくるかに目を向けます。たとえば、この椅子は、四角い木に穴を開けて、スチールを差し込んだだけ。でも、これだけでは脚が固定されないから、椅子の脚と脚の間に力を加えて固定させる。これは、構造力学にそってつくったものです。力学を活かしたものづくりは、作り方はシンプルですが、ムダがないぶんデザインの自由度が広がります。僕はものをつくるとき、左脳で構造を考え、右脳でデザインを創造しています。ふたつの脳をフル回転させながら、使いやすさと美しさにこだわったものづくりを目指しています。


暮らしの中にあってこそ、家具は生きる。


会社名の「すまうと」とは、「住む」に“心地よさ”や“あたたかみ”が同居した「住まう」という言葉に、すまう「人」たちの手助けができればという思いをつなげたものです。家具は単体ではなく、暮らしの中にあってこそ生きるものだと僕は思います。

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今年の夏、由比ヶ浜通りを歩いていたときに、ふと目に入った古民家。それが、僕と古民家スタジオ・イシワタリの出会いでした。特に古民家にこだわっていたわけではなかったのですが、家の中に入った瞬間、僕の作品が並んだときのイメージがぐんぐんと膨らんでいきました。1階の和室に大きなダイニングテーブルを置き、テーブルセットを並べてみたらどうだろう? 2階の廊下に椅子を置いたら気持ちがいいだろうなぁ、など考えるだけでワクワクしてきたのです。

『すまうための道具展』では、箸や箸置きといった小物から、椅子、テーブル、ベッドなどの大物家具まで、さまざまな“すまうための道具”をご紹介します。また、会期中は“つくる人”と“使う人”の交流の場としてワークショップやイベントも企画中です。僕がつくる“すまうための道具”がたくさんの方の生活の中で生きてくれたら、これほど嬉しいことはありません。
聞き手:石渡真由美 写真:福井隆也


【プロフィール】
野木村 敦史 Nogimura Atsushi
すまうと代表 デザイナー・家具職人・構造エンジニア
日本大学大学院理工学研究科海洋建築工学卒業後、日本鋼管工事株式会社に入社。30歳の時に家具職人を目指し、飯能高等技術訓練校木工科へ進む。卒業後、家具職人の街・静岡へ家族とともに移住し、独立を前提に市内にある木工会社に就職し、さまざまな家具を製作。36歳の時に企画デザインから製作までをものづくりとした会社 NOGIMURA company設立(のちに「すまうと」に改名)。2005年、東京国際家具見本市 SOON JDN賞受賞、2008年、Good Design賞受賞、2009年、100%Design PREMIO受賞。