大切にしたい、和のこころ。
「日本人に生まれてよかった」と思える暮らしの提案。
和ごころ伝承協会
子どもの頃、家族と楽しんだ年中行事。でも、今は忙しさを理由に忘れられつつあります。そんな危機感を覚え、3人の主婦が立ち上げた「和ごころ伝承協会」。もう一度、日本人の心を取り戻してみませんか。
日本の原点は家族の和。
いつまでも残したい、年中行事を楽しむ心のゆとり。
和ごころ伝承協会 代表 鷲田 智恵(着付け・礼法担当)
正月、成人式、節分、ひな祭りなど、日本には古くから人生の節目を祝い、季節の移ろいを楽しむ年中行事があります。昔は、生きるのが大変な時代だったため、それらの行事を迎えられることに人々は深い喜びを感じていましたが、豊かさと引き替えに忙しくなってしまった今は、これらの年中行事は簡素化されるようになりました。
ところが、東日本大震災を境に、家族の絆が見直されるようになると、“日本の原点は家族の和”と気づく人が増えました。私は、この“家族の和”を実感できるものとして、日本の年中行事はとてもよいものと思っています。実際、私は生まれ育った家族を思い出す時、幼い頃に家族と祝った年中行事の記憶が蘇ります。それはもう遠い昔のことなのに、その時に食べた料理の味や部屋の匂いまでもが鮮明に覚えているのです。こうした家族の思い出をいつまでも大切にしたいと思い、私は自分が母親になってからも、意識的に年中行事を行ってきました。子どもが幼い時は一緒に楽しみましたが、思春期なると家族全員がそろわない時もありました。それでも、子どもの時に体験した年中行事は、成人した子どもの記憶に刻み込まれています。そう実感したのは、普段、口数が少ない長男が、外ではそれを話題にしていると知ったからです。その時、思ったのが、日本人はたとえ子どもであっても、青年であっても、和の心があるということ。ただ、今の時代はそれに接する機会が少なく、身近に感じることができなくなっているだけなのです。ならば、それを伝えるのは、子育てが一段落した私たち世代の母親ではないだろうか、そう思い立ち上げたのが「和ごころ伝承協会」でした。
和ごころ伝承協会では、季節ごとに行われる日本の年中行事を衣、食、しつらい、礼法などあらゆる角度から紹介していきます。私の担当は着付けと礼法。着付けは着付師の母の影響もあり、自分にとってはとても身近なものですが、礼法については大人になってから学びました。礼法というと、なんだか堅苦しく感じてしまうかもしれませんが、ここでは、たとえば挨拶の仕方や冠婚葬祭のマナー、訪問時に差をつける風呂敷を使ったアレンジ法など、ちょっと知っていると暮らしに役立つことなどを紹介していきたいと思います。年中行事でも、礼法でもすべてを完璧にやろうとすると疲れてしまいます。けれども、日常にほんの少し手間暇をかけるだけで、グッとよくなるのであれば、やってみるのも一案。そんな気軽な気持ちで、ぜひ参加していただきたいですね。四季折々の年中行事が楽しめるのは、日本ならではの醍醐味です。さまざま年中行事を通じて、「日本人に生まれてよかった」と思えるような暮らしを提案していきたいと思います。
お茶と料理に共通する“もてなす心”。
小さなひと手間が豊かな心を育みます。
横山 宗智(茶道・料理担当)
お茶を趣味とする両親のもと、茶室のある家で育ちました。15歳から始めたお茶は、今では私の人生の一部となっています。ひとくちにお茶といっても、その世界は奥が深く、私はお茶を通じて自分の世界を大きく広げることができました。たとえば、そのひとつに料理があります。
今日、お茶といえば、茶会で濃茶か薄茶をいただくというのが一般的ですが、茶道は本来、炭をくべ、火がおきるまでの間に、一汁三菜の食事を出し、その後に濃茶を点ててもてなすという流れがあります。私は茶道を学ぶ中で、この食事にも大変興味を持ちました。出される料理は、決して高価な食材ではありませんが、季節を感じさせる旬の野菜を中心に、手間暇をかけて味付けをしていきます。また、たとえば、たくわんひとつにしても、お客様が食べやすいように隠し包丁を入れるなど、至るところに“おもてなしの心”を見ることができます。私は、茶道を通じて、このような日本人のおもてなしの精神に深く感銘を受けました。そして、このおもてなしの精神をいつまでも大切にしたいと思ったのです。
ところが今、世の中は忙しく動き、便利さやスピードばかりが重視されています。人は時間に追われると、気持ちのゆとりが持てなくなります。けれども、ほんの少しでも手間暇をかけるだけで、相手には愛情が伝わるものです。共働きの家庭なら、普段は手の込んだ料理が作れなくても、たとえば、お正月におせち料理を作ってみたり、節分に恵方巻きを作ってみたりするだけでも十分。食を通じて家族の団欒を楽しんでみてはいかがでしょうか。
和ごころ伝承協会の私の役目は、茶道と料理。この2つに共通するのは、“おもてなしの心”です。相手を考え、相手を思いやる気持ち。それは、今、私たち日本人に最も必要なことかもしれませんね。
家族の健康や穀物の収穫への感謝。
しつらいには“おかげさま”の気持ちが込められています。
縁 ひろこ(しつらい担当)
子どもの頃、一緒に暮らしていた祖母は、季節のしつらいを大切にする人でした。その影響もあってなのか、家の玄関にものを飾ることが好きでした。12年前にトールペイントと出会い、アメリカ、ロシア、オランダなど各国のトールペイントを学びました。そのうちに季節のものを取り入れたいと思うようになり、描いていくうちに、和のトールペイントにたどりつきました。今では、季節ごとに和製トールペイントを楽しんでいます。同時に古くから伝わる日本のしつらいを改めて見直したいと思いました。
季節のしつらいは、ただものを飾るだけではなく、それぞれに深い意味があります。たとえば、12月21日の冬至には、南瓜や柚子、小豆、唐辛子、お餅(12個)などをしつらえますが、これらの食べ物の赤は厄除けの色を表しています。また、野菜の少ない冬の時期に、栄養価の高い南瓜を食べ、温かい柚子湯に浸かって風邪の予防をしていたのです。そして、12個のお餅は1月~12月を表し、一つひとつ手でこねながら丸い形にし、1月はこんなことがあったなぁ~、2月はあんなことがあったなぁ~などと振り返り、お餅を掌(たなごころ)に乗せて、無事に一年が過ごせたことに感謝しながらしつらえます。このように日本のしつらいには、家族の健康や穀物の収穫への感謝の気持ちが込められています。
今、世の中は豊かになって、医療も発達し、お供え物に願いを託さなくても、人々は長く生きられるようになりました。けれども私は、豊かな時代の今こそ、もう一度、この感謝の気持ちを見直さなければいけないと思うのです。しつらいは、目に見えないものと向き合う行為です。それは、すなわち自分自身と向き合うことでもあります。たとえば、今、私が家族と幸せに暮らしているのは、お先祖様のおかげ、○○のおかげなど、自分をを振り返る時間を持つことがとても大切だと思います。しつらいには、目には見えない“おかげさま”の気持ちが込められているのです。私はこのような古くから日本に受け継がれてきた文化と日本人ならではの感性をいつまでも大切にしていきたいと思っています。しつらいにまつわるうんちくも大事ですが、まずは家の中に季節感を出し、それを家族と楽しむことから始めてみてはいかがでしょうか。
【和ごころ伝承協会】
子育てが一段落した3人の主婦が、着付け、茶道、しつらいなど、それぞれの得意分野を活かし、古くから受け継がれてきた日本人の知恵(和ごころ)を後世に伝えるために、2010年より活動を開始。ミッションは、日本文化に誇りを持った国際社会で活躍できる人材を育むこと。社会の最小単位である家族の和が日本の原点と位置づけ、人生の節目や季節の変わり目など、伝統的な年中行事を家族で楽しめるプログラムを提案。